"銀なる石"事件
埋め立て地の上に作られた街である鳴島市を中心に、"銀なる石"と呼ばれた、特殊な賢者の石を巡って引き起こされた一連の事件がある。後に"銀なる石"事件と呼ばれることになる、レネゲイド関連の事件の中でも、世界規模にまで達したもののひとつだ。
銀なる石
この事件の発端となったのは、"銀なる石"と呼ばれる賢者の石の一種である。その名の通り銀色の輝きを放つこの石は全部で7つ存在し、そのすべてを融合させることで、プライメイトオーヴァードとしての力を発現させることができるものであった。
"銀なる石"は、トートと名乗る研究者を中心としたヘルメスという研究集団の手によって生み出されたものだ。ヘルメスは7つの"銀なる石"を創りだし、それを用いて自分たちの手で神(プライメイトオーヴァード)を生み出そうとしていたのである。
アルス・マグナと名付けられたその計画は、数々の人体実験を経ながら、順調に進んでいるように思われた。だが、思わぬところから、計画は綻びを見せる。"銀なる石"の入れ物として用意した意志を持たぬはずの人造生命体が突如、知性を持ち、自分の意志を持つようになったのだ。
鴉と呼ばれた男
ヘルメス内ではミュールと呼ばれていたその人造生命体が、どのようにして知性と意志を持つにいたったのか。その似因は"銀なる石"にある。
"銀なる石"は賢者の石の一種だ。そして、賢者の石には、その石と融合した者の意志や
記憶を記録・保存する性質がある。度重なる実験によって"銀なる石"に蓄積されたそれらの情報がある種の反応を起こし、後に"鴉"と名乗る人格を形成したのである。
何もない状態から、レネゲイドの力によって発生した人格。そしてそれによって、明確な知性を持つにいたった、この鴉という存在は、現在で言うところのレネゲイドビーイングの一体だと考えられる。
自分の、意志に目覚めたミュールは、ヘルメスに迎合しなかった。それどころか、みずからの意志で組織に対して反旗を翻したのである。こうして鴉と呼ばれる男は誕生した。彼の手によってヘルメスの研究所は壊滅させられ、実験体として囚われていた"銀なる石"の適合者たちは別々に逃げて、その身を隠した。
こうして一度は散り散りになった"銀なる石"だが、鳴島市を中心に発生した事件によって、再びひとつに集まっていくこととなる。
鴉の願い
無から誕生した鴉は、生命として歪んだ存在で、極めて短い寿命しか持たなかった。そのため彼は、自分がこの世界に生まれた証を、存在した意味を見出そうとして、ある計画を実行しようと考えた。それは"銀なる石"の力で、世界からレネゲイドを消滅させること。
しかし、この計画には大きな問題があった。"銀なる石"の力で生物から強制的にレネゲイドを摘出した出合、その6割が負荷に耐えきれず死亡するリスクを抱えていたのだ。
鴉もそのことは承知していたが、それでも彼は7つの"銀なる石"のうち6つを用いて、計画を実行に移した。
だが、この計画は7つ目の"銀なる石"を持つ少女—七村紫帆とUGN鳴島市支部の面々によって阻止された。"銀なる石"は、七村紫帆の手によって、通常の賢者の石となり、その中に残された記憶("銀なる石"の所持者たち。もちろん鴉も含まれる)は受け継がれ、事件は集結を迎えたのである。
事件の集結と同時に、鴉は寿命を迎えて消滅することになったが、七村紫帆という、自分の記憶=存在した証を受け継ぐ者を得たことで、安らかに眠りについた。鴉の手によって抜き出されたレネゲイドは、元通りになり、昏睡状態に陥っていた者たちは目を覚ましていった。こうして世界は、元の姿を取り戻したのだ。
ただ、ひとつ変化があったとすれば、事件関係者たちの記憶に、自分の存在した証を残そうと戦ったひとりの男がいたことが刻まれたことであろう。